間に合わなかったみたいです・・・

お絵かきしりとり

チャレンジ牛乳のようにうんこに絡めないまでも僕と陽子ちゃんは仕事中に色々遊ぶ事が多かった。忙しい時は当然そんな事はできないが、ウチの職場は暇な時は極端に暇だったので、そんな時は上司に怒られない程度にちょこちょこと色んな事をして楽しんでいた。そんな暇なある日のこと。

「ねぇねぇ陽子ちゃん?ヾ(・д・` )ネェネェ」
「はい?なんですかぁ(´∀`*)」

「今日は何して遊ぼ?(・∀・)」
「う~ん・・・じゃあ、お絵かきしりとり(´∀`*)」

いくら家庭的なお店といっても一応は接客業なので、お客様に分かるようにおおっぴらに遊ぶ事はできない。なのでこの端から見ていて一見なにをしているのかよく分からないお絵かきしりとりは僕と陽子ちゃんの定番の遊びとなっていた。これなら仕事の合間にも簡単にできるし意外と暇つぶしにもなる。

「陽子ちゃんから始めていいよ(・∀・)」
「はぁ~い(´∀`*)」

さっそく陽子ちゃんがメモ用紙に何かを書き始めた。

「あっ、そうそう!これに負けたらヤクルト3本一気飲みだから(・∀・)」
「え~そんなの聞いてないですよぉ(´・д・`)」

「勝てばいいんだから大丈夫だって!(・∀・)」
「じゃあ、はるさん負けたら牛乳3本飲んでくださいね(´・д・`)」

「いやいやいや、牛乳3本は無理だってば!(´・_・`)」
「だって私が負けたら3本なんですよね(´・д・`)」

「なんとか2本で勘弁して下さい(´・_・`)」
「じゃあ、私も2本で(´・д・`)」

「うん。わかった(´・_・`)」
「(´∀`*)ウフフ」

お互い飲むと確実に下痢になる飲み物2本飲むことを賭けての戦いが始まった。とはいってもいつもこの遊びは途中で何となく終わっていたので今回もそうなる事は容易に想像できていた。そもそもこれは暇つぶしなので厳密に勝負を決めるつもりなど最初からなかった。 ただ、この 「売り言葉に買い言葉」的な展開も含めてがお互いの遊びになっていただけなのである。 適当なところで引き分け宣言をしてお互い罰ゲームなしにすればいいだけの話だ。

「まだ~?(・∀・)」
「ちょっと・・・待って・・・下さい・・・ね・・・はい!できた!(´∀`*)」

陽子ちゃんがメモ用紙を渡してくる。おぉ、なるほどスイカね。半月状に切られたスイカが種まで詳細に書き込まれていとても上手な絵だった。 しかもちゃんと一口食べられた跡まで描かれていてなかなか芸が細かい。

「上手いね!(・∀・)」
「(´∀`*)ウフフ」

「じゃあ俺の番だからちょっと待っててね(・∀・)」
「はぁ~い(´∀`*)」

自慢じゃないが僕には絵心が全くない。なので陽子ちゃんと絵の上手さで張り合ったところでコテンパンにやられてしまうのは明白だ。僕はどうやって陽子ちゃんを笑わせるかだけに神経を尖らせる。

(スイカだろ?・・・カ?・・・カ・・・・・・!)

僕は昔のイトーヨーカドーのロゴみたいな絵をサッと描きそれをすべて真っ黒に塗りつぶした。 僕流のカラスのつもりだった。簡単な絵だったので1分程度で描き終える。

「はい!出来たよ(・∀・)」
「えっ、早いですね(・o・)」

「なにか分かるかな?(・∀・)」
「プッ!なんなんですかぁ~これ!(´∀`*)」

概ね好評のようだった。 陽子ちゃんが笑いを堪えようとプルプルしているのがとても可愛い。 そのままプルプルしながらメモ用紙に何かを書き始めたところを見ると、どうやら僕の力作「カラス」は陽子画伯にも認識してもらえたようだ。

「まだ~?(・∀・)」
「もうちょっと待ってくださいね~(´∀`*)」

画伯がサクサクとペンを動かしている。 どうやら僕の力作にインスパイアされたのか先ほどのスイカ以上の作品を描き込んでいるようだ。

「10~~~9~~~8~~~」
「はい!出来ました(´∀`*)」

僕が意味もなくカウントダウンを始めるとともに画伯の作品が出来上がった。僕はメモ用紙を受け取る。そして今度は僕が膝から崩れ落ちる番となった。

「(≧∇≦)ブハハハ!」
「(´∀`*)ウフフ」

メモ用紙には太った裸の男が向かい合って両手を突き出している絵が描かれていた。「相撲」だ。ってゆーか、なぜ相撲? しかもお尻だけがやけに艶々に描かれていて謎の照かりまでが表現されている。僕は大いにツボにはまってしまって息が苦しくなってしまった。 それをみて陽子ちゃんが満足そうな表情を浮かべている。 思い出した・・・陽子ちゃんは見た目と違ってメチャクチャ負けず嫌いの娘だった・・・

「なんで・・・よりによって・・・www」
「だってまた同じ言葉だったんですよ(・ε・)」

そうか、スイカの「ス」から始まったのに僕のカラスでまた「ス」に戻っちゃったんだな。でもなんでスキーや鈴にしなかったんだろう? 今回の 「相撲」は陽子ちゃんの負けず嫌いというか笑いのセンスが光った作品だったようだ。

「じゃあ続けるねw」
「はぁ~い(´∀`*)」

さぁ、僕の番だ!僕の中で「う」から始まる言葉はひとつしかない。「うんこ」だ。僕はできるだけリアルにならないように漫画に出てくるタイプのブツをサクッと描いた。とぐろを巻いている鳥山明が描くような可愛らしいヤツだ。でも、やっぱりそれだけではなんだかつまらないので蝿を数匹ブツに止まらせたり空中を旋回させたりしてみる。

「出来たよぉ~(・∀・)」
「はるさん早いですねぇ(・o・)」

「は~い(^O^)」
「プッ!はるさんホントこういうの好きですよねぇ(´∀`*)」

一瞬ぼくの趣味がバレたかと思いドキッとしたが、陽子ちゃんの表情に嫌悪感はなかった。きっと今の言葉に他意はないだろう。多分「そういうネタが好きな人」程度の認識なんだと思う。そんな事を考えているうちに陽子ちゃんがまたペンを走らせ始めた。 陽子ちゃんは一度ペンを走らせ始めると迷いなくサクサクと作品を描き上げてくる。きっと絵心があるというのはこういう事なんだろうなと僕は思った。

「出来ましたぁ(´∀`*)」

今回もアッという間に画伯の作品が出来上がった。「チョコレート」だ。板チョコの絵がちゃんと凸凹まで表現されている。そしてこれも誰かがひとくち噛じった跡まで描かれていた。何も見ないでこれを描けるのって凄いよなぁ。・・・ってゆーか、「チ」って事は陽子ちゃんの中でさっきの僕の絵は 「うんこ」じゃなくて 「うんち」だったんだな。あれ?いつもはうんこって言ってなかったけかな? いや、いつもは「朝のトイレ」とか「トイレする」的な逃げワードだったかな? そんな事より「ト」だ・・・ト・・・よし!「トイレ」だ。

(和式にしようかな?洋式にしようかな?使ってる人も描いたら陽子ちゃん引くかな?)

そんな事を考えながらふと入り口の方に目を向けると誰かがウチの建物に入ってこようとしているのが目に入った。バッグを持ったスーツ姿の女性だった。一見、保険のセールスレディーといった感じでなんとなく高畑淳子っぽい。

限界な熟女登場

(お客様かな?それとも飛び込み営業かな?)

ウィーーーン!

ウチの自動ドアは古いタイプなので音が大きい。

「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ!」

中に入ってきた高畑さんに対し反射的に声をかける僕と陽子ちゃん。ここでお絵かきしりとりは一旦終了となった。 あとは高畑さんがお客様ならそのように対応し営業の方なら事務の人間をここまで呼んでくるだけだ。高畑さんがお客様なら靴をシューズロッカーに入れるはずだし営業ならそれをしないはず。 さて、高畑さんはどっちなんだろう・・・ん?

高畑さんは靴を脱ぐとそれをシューズロッカーに入れることなくそのままこちらへやってきた。 営業か? しかしなんだか様子が変だ。真っ青な顔をして表情が強張っている。 マズイ・・・これはクレームのパターンかも。しかもかなり怒ってるようだ。ウチの誰かが何かをやらかしたんだろうか?

「いらっしゃいませ(^^)」
「あの~・・・」

とりあえず満面の笑顔で迎えてみた僕に対し、高畑さんはとても怒っているとは思えないような弱々しい声で話しかけてきた。

「はい(^^)」
「すみません。お手洗い借りてもいいでしょうか?」

「あっ、はい!どうぞ。そちらの奥にございますので!」
「・・・・・・」

高畑さんは弱々しい苦笑いを浮かべながら僕たちに会釈をすると無言のままトイレへと向かっていった。なんて事はない。高畑さんはウチにトイレを借りに来ただけだった。 もしかしてクレームかもしれないと構えていただけに肩すかしを喰らった形となったが、 余計なトラブルに巻き込まれるのは冗談じゃないのでこれでよかったと胸を撫で下ろす。 しかし僕にはひとつだけ気になる事があった。高畑さんが「お手洗い~」と僕たちに言った時に右手でお腹をのの字に擦るジェスチャーをしていた件だ。きっと無意識にやってしまったんだろうが・・・あの手つき・・・

高畑さんはうんこをしにこの店に来たんだな( ・`д・´)

脂汗を浮かべた顔。声も少し震えていた。そしてあのジェスチャー・・・きっと猛烈な便意と闘いながらここまでやってい来たに違いない。 下痢だったのかな? ウチは受付けをしないと館内へ入ることが出来ない決まりになっていたのでトイレだけを借りにくる人など年に数人いるかいないかだった。 向かいにトイレが自由に使えるコンビニがあるのにわざわざウチにくる人などいない。 なのに高畑さんは顔に脂汗を浮かべながらウチにやって来た・・・ 熟女とはいえキレイ系の高畑さんが今まさにこのタイミングで下痢便を激しく噴射してるんだなと思うと興奮してきた。しかし陽子ちゃんの手前そんな素振りは見せる訳にはいかない。 僕は神経を集中して煩悩を取り払った。

普段なら女性が下痢をしているとわかればリアルタイム妄想を楽しむのが僕の決まりなのだが、今日はそれができない。 いまの僕に出来る事は高畑さんがトイレに入った時間を記憶しておくことだけだった。 このタイミングでフロントが少し混み始める。

「ねぇねぇ陽子ちゃん?ヾ(・д・` )ネェネェ」
「はぁ~い(´∀`*)」

「さっきトイレ借りに来た女の人ってもう出てきたっけ?」
「あ~・・・そういえば見てないですねぇ(・o・)」

お客様の流れが引いてふと高畑さんの事が気になった僕は陽子ちゃんに声を掛けてみた。しかし陽子ちゃんも高畑さんがトイレから出てきたのを確認していないという。僕の計算だと高畑さんは15分以上トイレに篭っていることになる。

「まさか中で倒れてないよね・・・?」
「わたし様子見てきますかぁ?」

「お願いする(´・_・`)」
「はぁ~い」

滅多にない事だが過去にトイレで倒れたお客様がいたこともあり僕は急に不安に駆られてしまった。腹痛が下痢だと決めつけたのは僕の早合点だったのかもしれない。最悪救急車を呼ぶことも覚悟しながらトイレへと確認に向かう陽子ちゃんの後ろ姿を見送った。

数分後、陽子ちゃんと一緒に高畑さんがロビーへと戻ってきた。 とりあえず立って歩いている姿を見てひと安心する。先ほどフロントに来た時の表情の険しさが消えてはいるが相変わらず顔色は冴えない。 ってゆーか、陽子ちゃんもなんだか微妙な表情をしていた。

熟女パンツを買う

(どうしたんだろう?)

高畑さんと陽子ちゃんはそのままフロント横の売店に入っていく。 ここはフロントの人間が対応することになっているので店内の様子が僕の位置から丸見えだ。何やら二人はヒソヒソと声をひそめて会話をしている。陽子ちゃんが何やら商品を渡して高畑さんが料金を支払った。 どう見てもあれは女性用の下着だ。商品の管理も僕の仕事なので間違いない。

(あっ、高畑さん下着を買った・・・)

売店から出てきた高畑さんがまたトイレの方へと歩いて行く。 売店のレジを打ち終わった陽子ちゃんが小走りにフロントへ戻ってきた。

「大丈夫?」
「あっ、ちょっと待ってください!」

陽子ちゃんは僕の問いに答えることなくフロント内にストックしてある使用済みのコンビニ袋を数枚手で掴むと慌てたように高畑さんの後を追っていった。

(下着の購入・・・コンビニ袋・・・陽子ちゃんの様子・・・もしかして・・・?)

すぐに陽子ちゃんが戻ってきた。

「大丈夫・・・なの?」
「あっ・・・いや・・・はい(;・∀・)」

陽子ちゃんが何かを隠している。でも、陽子ちゃんが隠そうとしている以上ぼくにはこれ以上その問題を追求することは出来なかった。もし高畑さんが僕が想像した通りの事態に遭遇していたとしたらなおさら陽子ちゃんにその事を詳しく聞くことなんか出来やしない。 熟女の下痢に興味を示してるだなんて陽子ちゃんに思われたくない。仕方がないのでお絵かきしりとりを再開することにした。僕はササッと和式便器を描き上げ陽子ちゃんにメモ用紙を手渡す。

「はい♪さっきの続き(・∀・)」
「はぁ~い(´∀`*)」

あれ?便器から立ち上る湯気まで描いて渡したのに陽子ちゃんのリアクションが薄い。陽子ちゃんは穏やかな表情のまま何も言わず「レ」から始まる何かの絵を描き始めた。

(このタイミングでトイレの話題はマズかったかな(ー_ー;))

そんな一人反省会を行っていると高畑さんがロビーに出てきた。僕と陽子ちゃんがその様子を見ているのに気がつくと高畑さんはそのままフロントの方へ歩いてくる。こんなとき僕はなんて声をかければいいんだろう? 「大丈夫でしたか?」じゃ失礼にあたるかな・・・「ありがとうございました」じゃ立場が逆になっちゃうし・・・。陽子ちゃんは何か事情を知っているんだろうけれど何も言わずに高畑さんの方を見ている。

「・・・・・・」
「ありがとうございました。」

何も言えずにいる僕に向かって高畑さんがお礼を言った。僕は「あっ・・・いえ・・・」と、だらしない返事しかできなかった。高畑さんはその後、陽子ちゃんに向かって軽く会釈をしてから靴を履き退館していった。

(きっと漏らしちゃったんだろうな・・・でも、陽子ちゃんにそれを聞いてもいいんだろうか? お漏らしをした女性に興味津々な変態だと思われないだろうか?)

「・・・・・・」
「・・・・・・」

でも、軽くだけでも確認はしておきたい。それでも陽子ちゃんが隠すようだったら今回の件は忘れることにしよう。意を決してもう一度陽子ちゃんに聞いてみる。

「さっきの人・・・大丈夫だったのかな・・・?」
「・・・・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「・・・・・・」
「え~・・・・」

「ん?」
「・・・・・・」

「・・・・・・」
「間に合わなかったみたいです・・・」

「マジで?」
「あっ、でもトイレは汚れてなかったです。」

「そっか・・・ならいいっか(・∀・)」
「・・・ですよね(´∀`*)」

陽子ちゃんの様子を見るにトイレの中で何かを目撃したり感じたりする瞬間があったのは間違いないようだ。 それが何なのかは僕には分からない。 高畑さんの何かしらの姿なのか、もしくはトイレ中に漂うニオイなのか、はたまた個室から聞こえてきた音なのか。 とにかく陽子ちゃんはこれ以上この話をしたくないようだ。もうこの件は無かったことにするしかないようだ。

「あっ、はるさんこれ!」

陽子ちゃんメモ用紙を僕に渡してきた。そうだ、そういえばまだお絵かきしりとりの途中だった。僕はメモ用紙に目を落とす。

そこには可愛らしいレモンの絵が描かれていた。

さっそく僕はヤクルトの自動販売機に走った。

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