陽子ちゃん差し入れに翻弄される

陽子ちゃんがツケを払うことになった日

僕の職場のフロント女性陣がうんこの時にバックヤードのトイレを使わずにお客様用トイレを使っていたのは、身内にうんこの残り香を嗅がれたくないという乙女ごころから来る行動でした。

でも同じフロントの一員であるはずの陽子ちゃんは、うんこの時でも構わずバックヤードのトイレを使う事が多かった。直接本人に理由を聞いてみた事があったが、返ってきた答えは「次に入った人が口外さえしなければ、基本的に個室内の臭いは次に入った人の責任になる」というじつに恐ろしい考えに依るものだったのです。

しかし世の中はそんなに甘いものではありません。
そんな陽子ちゃんも他の女性陣を舐めていたツケを払う日がついに訪れるのです。

その日のフロントは変則勤務で、陽子ちゃんが早番、僕が中番、そして遅番に女性主任という布陣でした。本来ならこれにバックヤード専門の補佐が付くのですが、連休明けの平日という暇になる事が確定している日だったので、その日は補佐なしの3人だけでフロントを廻す事になっていた。

僕がお昼過ぎに出勤すると陽子ちゃんがフロントで暇そうにしていました。どうやら主任の読みが当たったらしくお客さんは殆んど来ていないとの事。僕と入れ代わりに陽子ちゃんがお昼休憩に入った。その間もお客さんは殆んど来ない。1時間後に陽子ちゃんが休憩から戻ってくる。明らかに寝起きの顔だ。腫れぼったい顔も可愛い。

「寝てたの?」
「はぁい、朝まで遊んでたんでほとんど寝てなかったんですよぉ~」

「ご飯は?」
「眠たくて食べてないですぅ~」

受け答えが寝起きの子供のようだ。まっ、若いんだし一食抜いたくらい別にどうって事ないだろう。そのまま2人でフロントに立つ。

夕方くらいまで散発的にやってくるお客さんの相手をしながら陽子ちゃんとお喋り。最近出来た彼と朝まで遊んでいた事や、今日も仕事終わりにまた彼と遊びに行くという事を教えてもらう。ちょっと彼が羨ましかった。

差し入れのチキンを食べる陽子ちゃん

あと一時間で陽子ちゃんが上がりという時間に、最近結婚退職したばかりの先輩がフライドチキンを差し入れにやってきた。2人しかいなかった事に拍子抜けした様子だったが「若いんだから2人で全部食べなさい。」という言葉を残して帰っていった。

「どうする?持って帰って彼と食べる?」
「いま食べてもいいですかぁ?」

「いいよ。 そうか、お昼食べてないんだもんね。」
「そぉ~なんですよぉ。お腹ペコペコなんですぅ~」

もともと甘えた口調の娘だったけれど、最近慣れてきたのかその口調の度合いが増してきていた。この口調に彼もヤラれたんだろうな。

うちのフロントにはお客さんから死角になっていれば飲食OKという暗黙のルールがあったので、フロントの陰にパイプ椅子を置いて陽子ちゃんにチキンを食べさせる。お客さんからは死角だが僕からは丸見えの場所だ。

入社した当時は猫を被っていたらしく、食事会の時などでもあまり食べたりしない印象の陽子ちゃんだったが、じつは僕らがビックリするくらいの量を食べる娘だったという事が最近慣れてきて判明したばかりだった。どんなに食べても太らない体質は他の女性陣の羨望の的で「痩せの大食い」を地で行く存在だった。きっと代謝がもの凄く良いんだろう。

決して食べるのが早い訳ではないが、同じペースで黙々とチキンを口に運ぶ陽子ちゃん。小動物が一生懸命何かを食べてるような感じでかわいい。

「俺は要らないから残ったのは彼に持って帰るといいよ。」

律儀にポテトとビスケットを半分ずつ残していたが、それを聞いて安心したのか結局ポテトとビスケット一個ずつ全てとチキン2ピースを平らげた。この細い身体の何処に収まったんだろう。

「ごちそうさまでしたぁ。お腹いっぱい♪」

もう直ぐ帰れるという安心感と空腹を満たされた満足感からか、先程とは全然違うテンションで明らかに機嫌が良い。何度か口に手を当てて「隠しゲップ」していたのは可愛いかったが、炭酸と一緒に食べてたんだからこれは仕方がない。

あと30分で陽子ちゃんは上がりだ。

続く時は不思議と続くもので、今度はアイスクリームがフロントにやってきた。パチンコで勝った常連さんが、仲間に配るために大量に購入したハーゲンダッツを、フロントにいた僕と陽子ちゃんの姿を見て2つおすそ分けしてくれたのだ。持ち込みOKの緩い経営だからこその特典だった。

「どうする?食べれそう?」

さすがの陽子ちゃんもお腹いっぱいの状態ではアイスに手を出さないだろうと思いつつ声をかけた。しかし、
「いただきまぁ~す♪ どっちにしようかな♪」
陽子ちゃんは何の躊躇いもなしにアイスに手を出した。甘いものは別腹って本当なんだな・・・

「俺、アイス食べられないからもう一個も食べていいよ。」
「いいんですかぁ?」

女の人はそんなにアイスクリームが好きなんだろうか?うちの娘たちだけ?そんな事より大量の揚げ物にアイスクリーム・・・腸が弱くなくても下痢しそうな組み合わせだ。惜しむらくは陽子ちゃんが仕事を上がるまであと30分しか無いという事。下痢になるとしても時間が足りなすぎる。しかしこればかりはタイミングなのでどうしようもない。

そうこうしているうちに主任が遅番でやってきた。陽子ちゃんの仕事が終了である。タイムオーバー。ゲームセット。

この時間から主任がフロントに入り、僕がバックヤード担当になる。
簡単な引継ぎが行われ、僕と陽子ちゃんはフロントから離れた。

直撃の残り香

「おつかれさま。また明日ね!」
「お先しまぁ~す♪」

僕はバックヤードの仕事に必要な伝票を取りに事務室に向かった。陽子ちゃんは帰る前のトイレを済ませにバックヤードのトイレに入ったようだ。帰る直前のトイレなんでおしっこだろう。

僕は事務の加藤さんのところで油を売って、10分後にバックヤードに戻ってきた。トイレの前に陽子ちゃんのスリッパがそろえて置いてある。(えっ、陽子ちゃんうんこ?! あ~しくじった!なんで???)

こんな事なら事務室なんて後回しにして漏れ音に耳を澄ませばよかった!後悔してもしきれない。でも、なんで? 陽子ちゃんの家はここから歩いて3分も掛からない目と鼻の先。そんなに便意に襲われてる様子もなかったのに・・・どうして会社で?

迂闊だった。強い後悔の念に僕が呆然としているとトイレから陽子ちゃんが出てきた。僕の存在に気付くといつもの照れ笑いを浮かべながらそそくさと帰っていく。これはうんこの時の照れ笑いだ・・・

残り香のチェックをしたいが、この時間は他の部署の人間も出入りが激しいのでリスクが大き過ぎる。まるで釣り針に獲物が喰いついたのに、気付かずに逃してしまったような心境だ。しかも逃がしたのは陽子ちゃんという大物。リスクを犯してまで残り香を嗅ごうか?どうしよう・・・

「はるちゃ~ん!」

フロントで主任が呼んでいる。僕は急いでフロントに向かった。

「ごめん。ちょっとトイレ行ってくるからフロント見てて。」

そう言うと主任はトイレに向かった。(あぁ、たったいま陽子ちゃんがうんこしたのに・・・)
しかし主任が怒りながら直ぐに戻ってきた。

「信じられない!なにあの臭い!」(やっぱり臭ったんだ)
「どうしたんですか?」

「臭すぎてあれじゃ入れないわ。」(陽子ちゃんのってそんなに臭いの?)
「またまた~w さすがにそんなには・・・w」

「本当だって!厨房の溝口さんでしょ?」(厨房の老婆溝口さんは残り香問題の常連)
「え~っ、主任ちょっと大げさですってw」

「大げさじゃないって!ちょっとおいで!」
「えっ、・・・」

主任は僕の腕を掴むと女子トイレの前まで連れて行き入り口の扉を開けた。

「ほらっ、嗅いでみなさい!直撃だからw」

いつもこんな感じで強引にものを進める人だが・・・過去の奈々ちゃんとの一件で僕には「下の話題が苦手」という間違ったキャラ付けがされていたので、ふざけてワザとにこんな行動に出たんだろう。しかも今回は陽子ちゃんの臭いを「厨房の老婆」溝口さんの臭いと勘違いしている。陽子ちゃんがバックヤードのトイレでうんこをする事を知らなかったんだな、きっと。

急にいろんな事が起きて対応できずに混乱しているが、これはチャンスに違いない。僕は陽子ちゃんがした後のトイレに顔を突っ込んだ。

くさっ・・・ 思わず反射的に顔をしかめてしまう。

前回の下痢のときとは全く違う、それでいて強烈な臭いが個室に充満していた。誰もが毎日嗅いでいるあの臭い「ザ・うんこ」といった臭いだ。僕にはどうしてもあの可愛さとこの臭いをにわかに結びつける事が出来なかった。それほどまでにギャップが有り過ぎる。陽子ちゃんがいつもつけている甘い香水の香りが、下品なうんこの臭いの向こうに少し感じられたのが余計もの悲しさを増幅させた。

本当はめちゃめちゃ嬉しくて興奮していたのだが、主任の前なので素直に顔には出せずに僕はしかめっ面のまま半笑いになっていた。

「ね?w 本当に臭うでしょ?」
「・・・いや・・・あのぉ~・・・」

僕の様子がおかしい事に気付いた主任の顔から笑顔が消える。

「どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫です!はい・・・いや、溝口さんじゃ・・・」

ここで主任が事実を悟ったらしくハッとした表情になった。

「もしかして陽子ちゃん?陽子ちゃんが使ったの?」
「・・・・・・はい・・・。」

「うそ!だってさっき帰ったでしょ?」
「いや、僕も帰ったと思ってたんですが使ってましたw」

「てっきり溝口さんだとばっかり・・・はるちゃん!」
「はい。」

「内緒だよ!絶対陽子ちゃんに言ったら駄目だよ!」
「いや、言えないッスw  ・・・でも・・・」

「でも?」
陽子ちゃんも臭いんですねw

「当たり前でしょ!忘れなさい!」
「はいw」

口止めをされてしまったので、この件に関しては陽子ちゃんに直接真相を聞く事が出来ませんでした。なぜ帰る直前に下痢でもないのに会社のトイレを使ったのか?あくまで憶測でしかありませんが、その日の陽子ちゃんの行動と会話である程度の事がわかります。

前日どのタイミングでうんこをしたのかは分かりませんが、朝まで遊んで直接会社に来ているので所謂「朝のトイレ」を済まさないで仕事に入った事。休憩時間に食事を取らずに眠っていた事。夕方に大量の食事を摂った事・・・。

陽子ちゃんがいつも会社でうんこをするのは「朝のトイレ」を済ませずに会社に来て、その日最初の食事を済ませた直後だった。保健体育でも習った大腸反射によって便意が起きたんだな。そういう意味では陽子ちゃんは素直な身体なのだろう。いつもなら午前中に起きる便意が不規則な生活にリズムが乱され夕方に起きただけの事だったようだ。だから残り香も下痢臭じゃなくてうんこ臭だったというのも合点がいく。かなり激臭ではあったが… 家に帰えらずに会社でうんこをしたのは、会社から直接遊びに行きたいのにわざわざうんこをしに家になんか帰ってられないといったところか。

当時はまだ職場内で清楚キャラとして通っていた陽子ちゃんだったので、主任も気を使ってこのような口止めがなされたが、本当の陽子ちゃんは全然違ったキャラクターだったという事がその後知れていき、僕をもっと楽しませてくれるのだった。

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